私がユーザビリティを重視するようになった理由

前回の記事では、個人サイトと法人サイトの違いについてお話ししました。

法人サイト制作を続ける中で、私は「利用者」と「発注者」が必ずしも同じではないことに気付きました。

そしてもう一つ、考えるようになったことがあります。

それは、

「良いホームページとは何だろうか」

ということでした。

ホームページ制作を始めた頃の私は、多くの制作者と同じようにデザインに興味を持っていました。
見た目が美しく、洗練されたホームページを見るたびに、

「こんなサイトを作れるようになりたい」

と思っていたのです。

しかし、法人サイト制作を続けるうちに、私の関心は少しずつ別の方向へ向かうようになりました。
見た目の美しさよりも、

利用者にとって使いやすいこと

の方が重要ではないかと考えるようになったのです。

今回は、私がユーザビリティという考え方にたどり着くまでの話を書いてみたいと思います。

デザイン性の高いサイトを見ても、答えはそこにありませんでした

ホームページ制作を学び始めた頃、私は数え切れないほど多くのWebサイトを見ていました。

プロのデザイナーが手掛けたスタイリッシュなサイト。
大胆なレイアウトや美しい写真を使ったサイト。

見ているだけで刺激を受けるようなホームページがたくさんありました。

当時は Photoshop の解説書やチラシデザインの本を買い込み、雑誌を読みながら勉強していました。
今のように動画学習サービスはほとんどなく、書籍や雑誌が貴重な教材だった時代です。

もちろん、そうした勉強は役に立ちました。
しかし、法人案件を受けるようになると、お客様から聞く言葉は少し違っていました。

「メニューが分かりにくいサイトは困る」
「どこをクリックすればいいのか分からないサイトは避けたい」
「格好良くても、必要な情報が見つからなければ意味がない」

そんな声を聞くことが増えたのです。

実際に参考としてデザイン性の高いホームページをお見せしても、

「きれいだけれど分かりにくい」
「何を伝えたいのかがよく分からない」

という反応をいただくことがありました。

私はそのとき少し驚きました。

制作者から見ると優れたデザインでも、利用者や企業の担当者から見ると使いやすいとは限らなかったからです。

デザイン業界で評価されるホームページと、企業が求めるホームページは必ずしも同じではない。
そんな当たり前のことに、私はこの頃になってようやく気付き始めました。

法人サイトでは「誰でも使えること」が求められた

法人サイト制作をしていて印象的だったのは、「誰でも使えること」を求められる場面が多かったことです。

お客様からは、

  • 高齢者でも迷わず使えるようにしてほしい
  • 視覚に障害のある方でも情報を取得できるようにしてほしい
  • 手が不自由な方でも利用できるようにしてほしい
  • Mac でも Windows でも問題なく利用できるようにしてほしい

といった要望をいただくことがありました。

現在では アクセシビリティ と呼ばれる考え方ですが、当時の私は、

「なぜそこまで考える必要があるのだろう」

と思っていました。

そこで調べてみると、視覚に障害のある方の中には読み上げソフトを使ってホームページの情報を取得している人がいることを知りました。
また、マウスを使わずキーボードだけで操作する人もいます。

つまり、私が普段見ているホームページと、利用者が実際に体験しているホームページは同じではなかったのです。

このことは、私にとって大きな発見でした。

案件を重ねるうちに、こうした要望は一つずつ仕様書の確認項目になっていきました。

  • メニューは分かりやすいか
  • リンクだと分かる表現になっているか
  • 異なる環境でも正しく表示されるか
  • 初めて訪れた人でも迷わず目的のページへたどり着けるか

当時はまだユーザビリティという言葉を強く意識していたわけではありません。

それでも、制作を続けるうちに私の関心はデザインそのものよりも、利用者が困らないことへ向かっていきました。

利用者はなぜ迷うのだろう

こうした経験を重ねるうちに、考えることも変わっていきました。

以前の私は、

「どうすれば格好良いホームページになるのだろう」

と考えていました。

しかし次第に、

「なぜ利用者は迷うのだろう」

「なぜ必要な情報にたどり着けないのだろう」

「どうすれば問い合わせにつながるのだろう」

と考えるようになりました。

利用者はホームページを鑑賞するために訪れているわけではありません。

  • 商品を調べたい
  • 会社について知りたい
  • 問い合わせをしたい

何かしらの 目的 を持って訪れています。

そのため、どれだけ見た目が美しくても、目的の情報へたどり着けなければ利用者にとっては使いにくいホームページになってしまいます。

私は少しずつ、

ホームページは作品ではなく、利用者が目的を達成するための道具なのではないか

と考えるようになりました。

今振り返ると、この頃から関心がデザインから使いやすさへ移っていたのだと思います。

ホームページは作品ではなく道具

ヤコブ・ニールセンの著書との出会い

そんな頃に出会ったのが、ヤコブ・ニールセンの著書『ウェブ・ユーザビリティ』(原題: Designing Web Usability)でした。

当時の私は SEO を学んでいたわけではありません。

興味があったのは、

  • なぜ利用者は迷うのか
  • なぜクリックされるのか
  • なぜ問い合わせにつながるのか

という利用者の行動そのものでした。

ニールセンの本を読んだとき、

「利用者が迷わないことを優先する」

という考え方に強く共感しました。

ホームページを作品として考えるのではなく、利用者が目的を達成するための道具として考える。
それまで現場で感じていたことが、一冊の本によって整理されたような気がしたのです。

今振り返って思うこと

現在では UX という言葉が広く使われるようになりました。
また、AI がデザインを作り、コードを書く時代にもなりました。

それでも、ホームページ制作の本質はあまり変わっていないように感じています。

  • 利用者は何を求めているのか
  • どこで迷うのか
  • どうすれば目的を達成できるのか

それを考えることは、今でも制作側の大切な仕事です。

私がユーザビリティを重視するようになったのは、専門書を読んだからではありません。
法人サイト制作の現場で、お客様や利用者から繰り返し教えられた結果でした。

ホームページは作品である前に、利用者が目的を達成するための道具です。
その考え方は、Web制作を始めた頃から現在まで、ずっと変わっていません。